2015年2月「21世紀の資本」を読む

 一昨年春にフランスで出版された「21世紀の資本」トマ・ピケティ(1971-)著が話題になった。昨年4月に米国で英語版がでて、全世界で150万部2015.2.1現在という経済学の専門書としては異例ベストセラーとなった。

 ピケティが取り上げた所得上位層の所得が総所得に占める比率の推移をめぐる研究は、2011年のウォール街を占拠せよ運動に大きな影響を与えた。この運動の中では、所得最上位層1%の所得が総所得に占める比率の推移など、ピケティたちの研究の成果が広く紹介され、これが金融界批判の理論的根拠とされた。

 日本でも昨年12月8日に日本語版が出版され、現在アマゾン売上第一位となり大きな話題を呼んでいる。700ページに近い大著なので最後まで読み通せるかどうかに自信がなかったが、昨年「所得格差を考える」をわたくしのwebsiteに公開したこともあり、これに関連する経済書として見逃せないで、1月中旬に入手し約一週間かけて読了した。同書には解説書や書評が多数でており、日本社会の各階階層に与えた衝撃の高さがうかがえる。

トマ・ピケティという人物
 1971年生まれで現在44歳という若さ。1989年18歳の時に東西冷戦の象徴であった「ベルリンの壁崩壊」を体験している。そのためかマルクス主義の幻想をほとんど受けていないようだ。22歳の時にロンドン大学で「富の再分配」で博士号を得たのち、アメリカに渡りマサチュウセッツ工科大学で准教授として教鞭ととった。

 米国では経済学が高等数学をつかい専門家のものとなっていることに幻滅して帰国。パリ大学、パリ経済学校の設立に関与し、初代代表になる。その間、各国の税務統計データを収集し長期的視野からみた経済的不平等の研究に取り組んだ。本書は、その成果をまとめたもの。

 この大著を読むのに大分ためらったが、1月に入り、思い切って買い1週間かけて付箋をはりながらなんとか読みとおした。
15年に渡り世界中から収集した膨大なデータを分析した結果、単純な3行の資本主義の基本法則を導きだした。




クズネッツ逆U成長曲線

 参考 現代経済学が一般化している成長理論
 経済成長率=生産性増加率+人口増加率
 クズネッツは1913-1950年間の国民所得GDP(国内総生産)の時系列データを収集し、不平等の歴史的推移を調べた結果、この間に所得不平等が圧縮されていることを発見。それを基に、左記の「クズネッツ逆U成長曲線」を発表した。

 トマ・ピケティらは、これを基にして期間を1700年から今日まで約300年のデータを収集して調べた結果、これが第一次世界大戦から第二次世界大戦後の戦争のショックでの例外的特異期間であることが分かった。このことが「21世紀の資本」をまとめる端緒になった。

 これらについて、クルーグマンを始めサマーズもこれだけでもノーベル賞ものだと激賞している。わたくしがいままで抱いていた疑問などがやさしく説明され、大変参考になった。
29日に朝日新聞「21世紀の資本」シンポジウムをインターネットで視聴したが、通訳がうまくなく今一つだった。You Tubeで「トマ・ピケティ パリ白熱教室」を検索すると「トマ・ピケティ講義」がでてくる。これは通訳もうまく大変分かりやすかった。


 1月31日東京都市大学市民講座受講者研究会にて、「所得格差を考える」(本websiteに掲載している)のテーマで昨年12月6日の前半に引き続き後半の発表をおこなった。この研究会は5年前に当大学で開かれた市民講座の終了後、有志の市民の間で時々の問題を話し合おうということではじまった。テーマは各自が任意に決め持ち回りで発表をおこなってきた。研究会には当学担当教授が出席され、ゼミナール形式で進めている。

 日頃疑問に感じていることをテーマにして調べを始め、毎年ひとつづつ発表してきた。この発表したものは本websiteに載せている。当日、パワーポイント(本website「所得格差を考える説明用」を使って発表を行った。またインターネットで入手した「21世紀の資本」トマ・ピキティ スライド版45枚を抜粋したものを参考資料とした。

 今回の発表後に皆さんから感想をいただいた。その主なものを拾ってみると次のようになる。
・日本を取り巻く背景:1980年代から円高が続き、国内産業が立ち行かなくなり海外に工場移転をせざるをえなくなった。国内産業空洞化がはじまった。
合わせて、否応なくグローバル経済に突入してきたため、国内の高い労働力が海外の安い労働力に対抗できなくなった。
・労働者派遣法制定の本音は、安い賃金で雇える非正規労働者をつくることにあった。
 → 今日、結果的には一応平穏に見えるが、社会の底辺でしわ寄せを食い生活苦にあえいでいる非正規労働者が増えている。

 トマ・ピケティは著書「21世紀の資本」にて次のようにいっている。
現在世界的に見て上位10%のグループが、国民年間総所得(フロー値)の約30~50%を占め、また家計資産総額の約60~90%を占めている。
(位置の順序は低位が欧州、中位が日本、高位が米国)、今後さらにこの格差が広がると予想される。このままゆくと、世界的に暴動が頻発する。それこそ資本主義の危機だ。

 現在、先進国はいずれも財政赤字・デフレ不況に陥っている。どこかに国が破産宣告(デフォルト)を受けたり、ハイパーインフレになると、それが各国には波及し大混乱になる。過去には戦争によって財政赤字を解決した例もあるが、それでは知恵がなさすぎる。

 貧困や財政赤字に対する処方箋は、資産から負債を差し引いた正味資産に高い累進課税をかけるべきだ。正味資産に多く持っている超富層には課税が強化され、低中間層(家計・企業とも)にはあまり課税負担がかからなくなる。また、所得税も同様に累進課税をかければよい。

 わたくしもこれには賛同する。今後資本主義を延命させるにはこれしかないのではないか。また、欧州で始まった金融緩和について、これを実施すると金融バブルが起こり不動産や株などの資産価値があがり、利益を得るのは資産を所持している富裕層だけだ。デフレ不況には消費税増税は良い影響をもたらさず、むしろ消費需要を喚起する賃金引上げが効果的だとも言っている。

 世界には国民主権を徹底するスエーデンのような国もある。これらの問題について、専門家任せにせず、主権者である国民の各階各層間で大いに民主的な議論を重ねてゆくことが必要ではないだろうか。