2014年6月十二社神社の御燈明祭り

 八王子市の中部、西八王子駅西南に連なる散田丘陵北端に十二社神社という小さな村社がある。わが家から5分位のところだ。村社だから神主が境内に常駐しているわけではない。昔の村の丘陵の一角に社を祀り、祭神を鎮座し一村の守り神としたものだろう。

 小高い雑木林の丘の鎮守の森に小さな社だ。下の道か本殿への参道は約30m位の急な狭い石階が立ち上がり、上りきると小広場のむこうが本殿だ。社の脇には樹齢数百年は経つスタジイの木がどっしりと立っている。本殿の脇に小さな奥宮とお稲荷さまが並んで鎮座し、お稲荷様へは寄付者の名入り稲荷大明神の赤旗が小参道の両脇並んでいる。小規模ながらも一応神域にすべて神々が揃っているようだ。

 わたくしが40年前にこの町に越してきた当初、家の周囲の人家はまだまばらだった。そのすこし前までは、そのあたりから高尾駅(当時は浅川駅)が見えたそうだ。戦前はこのあたり一帯は桑畑の純農村地帯だったという。この村社は、農家の村人が心のよりどころとして尊崇し、季節ごとに余所から神主を呼んで村人総出で祭礼をおこなってきた。

 最近になって、といっても十数年前(正確に把握していない)、町内で御燈明祭りをしようということが持ち上がった。御燈明祭りは毎年、5月の第一土曜日行われる。御燈明祭りの御燈明とは蝋燭の明かりのことだ。本殿までの石階の両脇に数千本の竹串にさし、蝋燭を立てて一斉に火を入れるのだ。蝋燭には家内安全とか健康第一とかの願い事と名前をかく。町内に役員が家々のまわり、蝋燭を売る。わが家でも買って家族の名前と願い事を書きこんだものだ。役員はそれを集めて、祭日の当日、事前に竹串に蝋燭をさしておく。

 蝋燭への点火は、薄暗く刻限の午後6時半になると合図とともにバーナーを持った消防団の点火者が一斉に蝋燭に火を灯す。あたりはだんだん暗くなって、三々五々参拝者が集まり石階をのぼりはじめる。薄暗い中に数千本の蝋燭の火が浮かぶ。参拝者は各々思い思いに蝋燭の明かり向かって両手を合わせ、お祈りをする。蝋燭の火が参拝者の顔を照らし、一種幽玄な世界が現出する。

 数年前から、この雰囲気をデジカメ写真に撮ろうと何回か試みた。暗い上に人通りが動く。写真はブレ流れてしまう。うまくいかないので、今年は我がデジカメクラブの先生を呼び、撮り方を教授してもらうことになった。点火の30分前に現地にきてもらい、事前に石階の下から本殿までと周辺の神域を下見に歩いた。なんせ規模の小さい村社なので、石階の幅も3人並ぶとほぼ一杯になる。石階の男坂は上り専用、脇のゆるやかな女坂は下り専用というように交通規制がかかっている。予め石階の脇に三脚がおけるスペースの目星をつけておいた。

 刻限が来て、いよいよ点火だ。人がどんどん上がってくる。若い夫婦連れが多い。近くにマンションからくるのだろうか。子供連れもいる。蝋燭に浮かぶ人々の顔がゆれうごく。
非日常の異次元世界となり、みんな幸せそうな顔々が浮かんでいる。

 燈明の ゆれ人のゆれ 五月闇 幹治