2013年9月「バランスシート不況の経済学」をもとに、
昭和から平成への移行時に起きた日本経済の変容を考える

今年の4月頃から始めた表記論考のまとめが、8月に入っていよいよ大詰めになってきた。いつもならでデジカメ撮影記などをまとめて翌月の原稿にするところだが、月末になってもその余裕がない。そこで現在進めている論考のまえがき部分を今月の文章として載せることにした。

前論考「消費税増税を考える」の論点整理
・主に内閣府・国民経済計算・法人企業統計、国税庁・統計情報などの国の統計資料をもとに「日本経済の循環の実態」「法人企業の実態」「民間給与の実態」に迫ろうとした。

・「1990年バブル崩壊以降、意図的に財政赤字がつくられた」。
・消費税は、一律税率のため低所得層に負担を強いる逆進性があり。一方、所得税、相続税などは、累進税率があるため応能原理に則して、担税力のある高所得層の負担を増やす累進性消費税であることを明らかにした。
・消費税は、国内の需要面にあまねく課税されるため、ほかに経済成長を押し上げる柱がない限り、民間最終消費支出は冷え込み、ひいては経済成長を引き下げる結果となる。
・現在、わが国の租税負担率は国際的にも低い値にある。1989年から導入された3%消費税、その後の5%税率引き上げと、それとは逆に法人課税の税率引き下げによる法人減税によって税収が大きく落ち込み、現在に至っている。
・その一方、法人企業の利益剰余金(内部留保)は281.7兆円(2011年)、一国経済の正味資産(国富)に占める対外純資産が265.4兆円(2011年)合計547.1兆円に達している。
・年間民間給与は1998年423.8万円、2010年358.9万円と64.9万円も減ってきている。
・以上の点から、現時点にて財政再建を目的とする消費税増税を行うべきではない。

前論考の中で「1990年バブル崩壊以降、意図的に財政赤字がつくられた」と記述した点について、何故そうなったかが当時よくわからなかった。同論考中1990年に始まるバブル崩壊により、2004年までに土地・株式の合計損失額が約1500兆円に及んだという、リチャード・クー氏の「バランスシート不況の経済学」にも若干触れていた。

今回数冊の同氏の著作を読み直してみて、バランスシート不況時にデフレギャップを埋めるため財政出動が必要だったとの説明が詳しくなされていることが分かった。そこで同氏がこれを立証するために引用している日本銀行統計のほぼすべてを、インターネットの最新データで検索し、それを自分なりに再構成してグラフ化してみた。

リチャード・クーの「バランスシート不況の経済学」とは
リチャード・クー(1954~)エコノミスト野村総合研究所主任研究員は2003年「デフレとバランスシート不況の経済学」徳間書店を出版。日本の土地バブル崩壊後の長期デフレ不況を企業のバランスシート毀損時の行動から解明した。

また木下栄蔵(1949~)名城大学都市情報学部教授は2004年「経済を支配する2つの法則-神の見えざる手と合成の誤謬の世界」電気書院を出版。バランスシート不況との表現は使っていないが両氏共、これまでのマクロ経済学が見落としていた不況時の世界について共通の定理に達している。前者は主に日本銀行統計を使い金融経済面から論じ、後者は数式を交え通常経済と恐慌経済がOR(operations research)的表現で双対問題だと論じている。著作引用に際し、両氏の敬称は省きました。

1990年に始まるバブル崩壊により、土地価格・株価の大暴落し大多数の民間企業のバランスシートが毀損した。そのため各企業は成長戦略を中止し、一斉にバランスシートを修復すべく銀行からの借入金を減らし方向に走り始めた。これによって民間投資は大きく減り有効需要が減った。これまでのマクロ経済学は、経済成長を柱にして組み立てられたもので、デフレ不況が続く負の経済活動を説明することができない。またデフレ不況の原因が解明できなければその対策を立てることはできない。

朝顔を 道行くひとの ふりかえり 幹治