2013年2月 安倍政権の経済政策を問う

第183回通常国会、安倍首相所信演説の主な内容は次のようなものだった。2013.1.28朝日新聞夕刊一面 所信表明演説の骨子より転載。

・ 政治的挫折や過去の反省を教訓に丁寧な国政運営にあたる
・ 最大かつ喫緊の課題は経済再生
・ 金融政策、財政政策、成長戦略の「三本の矢」で経済再生
・ 2%の物価安定目標を早期に実現
・ 「緊急経済対策」で景気の下支え成長力を強化
・ 復興庁がワンストップで被災地の要望を吸い上げる
・ 日米同盟を一層強化
・ 領土・領海・領空は、断固として守りぬく
・ 国民の誇りと自信を取り戻し「強い日本」をつくる

この骨子の中に「2%の物価安定目標を早期に実現」がある。これはなにを意味するものだろうか。消費者物価指数(総合)は5年ぶりにプラス0.5%に上昇する。安倍政権は1月15日の臨時閣議で2012年度補正予算を決定。総額13.1兆円、うち経済対策関連で10.3兆円、事業規模20.2兆円の戦後2番目の規模となる。そして13年の経済成長率の見通しを2.5%にすることを閣議決定した。

安倍政権は同月29日午後に臨時閣議を開き、2013年度政府予算案(一般会計)を決めた。総額は92.6兆円にふくらみ、過去最大規模になった。社会保障で生活保護の水準を切り下げる一方、2012年度補正予算に続いて公共事業を増やし、「人からコンクリート」への転換が進み始めた。

安倍政権の経済再生政策は、先の民主党政権以前に20年続いてきた、既に失敗済みの自公政権の経済政策を、なんら反省もなく復活させたものである。これは既に本websiteの「消費税増税を考える」にて、「安倍政権発足にあたって 復権した自公政権の従来の経済政策を検証する」として掲載したので、詳しくはそれを参照こと。

ケインズ「有効需要の原理」とは

Y : 国民所得(GDP)    I:投資
YD :総需要(財の需要)     C:総消費
YS:総供給(財の供給)

戦後日本は、180年頃まで巨額の公共投資によって高度経済成長を遂げてきた。これが1990年頃を境に、いくら公共投資を行っても経済成長はできず、いわゆる「失われた20年」というデフレ不況が今日まで続いている。この経済成長戦略の理論がケインズといわれるものだ。
詳細は、本website「消費税増税を考える」中の「有効需要の原理とは」にて説明。

これによると、国民所得(国内総生産に等しい)約500兆円のうち、消費8割、残り2割を投資他に回すものと仮定する。政府が10兆円の公共投資をすると、投資が連鎖的の需要を喚起して5倍の50兆円、すなわち10%の経済成長率が望めるというものだ。

この「有効需要の原理」はいつでも有効というものではない。それにも拘わらず、過去20年続いていた自公政権は失敗に次ぐ失敗を重ね同じ過ちを繰り返し、その挙句デフレ不況と巨額の財政赤字を積みあげてきた。この政治責任は厳しく問わなければならない。今回も失敗からなにも学んではいない。同じ過ちを繰り返すのは愚かというものだ。

国債発行による公共投資には、経済成長して国民所得と税収が増え、財政赤字がこれ以上増えないことが絶対条件である。これが出来なかったことは過去の負の実績が証明している。今一度、あらためて実験するまでもない。

デフレ不況の真の原因と、その対策
さて、果たしてデフレ不況を克服する妙薬はないだろうか。それにはデフレ不況の真に原因を知ることである。その真の原因は国民消費の冷え込みにある。日本の場合、国民所得の約6割が国民消費、残り約4割が投資(公共投資含む)他になる。これまで、目が投資ばかりにいっていた。

それを国民消費に目を向ける。現在、雇用者の平均給与は最高時に比べ約15%、約65万円落ちている。国民所得が落ちているため消費が増えない。
「有効需要の原理」は、ある条件下では劇薬として効能がある。

最高時に比べ、民間給与総額が約28.5兆円も落ち込んでいる。1998年から2010年まで民間給与減額累計は約221.0兆円。また、1989年から2012年までの消費税累計は201.9兆円。この両方を合わせると約422.9兆円。これでは消費が冷えデフレ不況になるのは当然である。
「消費税増税を考える P38、P52」より引用

I投資(供給)先行からC消費(需要)喚起への政策転換
これを何等かの政策によって元の給与に戻すことができれば、同様の計算により28.5兆円の5倍145.2兆円も国民所得:国内総生産GDPを増やすことができる。計算上の経済成長率は約29%(その1/3としても約10%)を達成することができる。

一番効果のある政策は、20年以前の税制に戻すこと。また労働者派遣法を廃止し、非正規労働を廃止し、同一労働同一賃金に戻すこと。さらに企業側は内部留保のほんの一部を取り崩して雇用者の賃上げに充てることなどである。

巨額な財政赤字は財政の所得再分配機能を奪い、現状では政府を操る企業側の目先の賃金抑制によって、却って経済成長が阻害される。また国は、サラ金財政運営によって財政破綻を招き、これが日本の経済社会構造を根底から揺るがしつつある。

現在、生活が立ち行かない社会の底辺に世直しのエネルギーが蓄積され、暴発する畏れすらある。現在世代の束の間の安逸のために、最終的に負担を被るのは未来世代である。