2012年7月 大飯原発再稼動について

昨年3.11福島原発事故が発生して1年3月余を経過。まだ原発事故解明が進んでいないのにも拘わらず、6月16日、政府は大飯原発の再稼動に同意した。地元の市町村、県の同意の得た上で「国民の生活と産業を守るために原発再稼動が必要」が理由とのことである。原発事故によって原発神話は完全に打ち砕かれた。

原発事故発生直後及びその後の東電、政府、原子力ムラの対応は、決して国民の生活と安全を守るものではなかった。いまだに続いている産業界、マスコミ、原子力ムラ、共同体の原発利権に、政府が救いの手を貸したといわざるをえない。政府は国民の信を既に失っている。

日本の世論
全国紙の世論調査では大飯原発再稼動賛否を次のように報じている。

読売
2012.6.12
賛成 43%
反対 47%

朝日
2012.5.21
賛成 29%
反対 54%

毎日
2012.6.3
賛成 23%
反対 71%

これをみても日本国民は原発再稼動に全面的に賛成しているとは到底いえない。

西欧諸国の世論
1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故後、スェーデン、イタリア、ドイツなどで原子力撤廃の世論が高まった。その後、原油価格の高騰、地球温暖化対応(多くの問題がある)、新興国のエネルギー需要の逼迫などを理由にアメリカ、フランスなど若干原発推進の動きがでてきた。

EUの盟主であるドイツでは3.11福島原発事故を受けて、直ちに国内17基ある原発のうち7基を暫定的に停止した。その後、ドイツ政府は2022年までに全17基の原発を閉鎖することに決定した。その背景には脱原発の急速な国民世論の高まりがあり、政府はそれ無視することはできなかった。それが先進国の民主主義というものである。

独シーメンス、原発事業撤退 独の脱原発政策受けて
ドイツ電機大手シーメンスが原子力発電事業から撤退することが明らかになった。ドイツでは、メルケル政権が東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて2022年までの原発閉鎖を決定している。政策転換が企業の戦略にも影響を与え始めた。レッシャー最高経営責任者が18日の独誌シュピーゲルで撤退の方針を表明。同社の広報担当者は19日、「今後は原子力発電所建設を率いることはないし、原子炉事業にも関わらない。ドイツの脱原発を踏まえた戦略的な決定だ」と語った。
ただ、どの発電所にも使えるタービンなどを原発にも供給することは続ける。提携関係にあるロシア国営原子力企業ロスアトムへの協力のあり方も再検討するという。
2011.9.19 朝日新聞

原発事故による放射性物質の拡散、捨場のない放射能廃棄物の問題、将来にわたる放射能廃棄物の処理、放射性物質による若い世代への健康被害、これらはすべて現在世代の生み出したもので、未来世代への負の遺産となるものだ。
これに対し、政府「国民の生活と産業を守る」「安心・安全に配慮する」などの説明は、国民の心配に対してまるで答えになっておらず、全く空疎にしか響いてこない。民意を尊重しない政府は、西欧に比べ大分遅れている。民主主義は、上から与えられるものではない。自らもっている権利を行使することによって生まれるものだ。

日本の原子力発電所の運転状況について、別紙の通り2012.5.5時点で運転中のものは1基もなくなった。電力使用について
「一粒のオリザ」http://www.oryza101.com/
「エネルギー政策を考える」「原発の発電コストと二酸化炭素排出量」に詳しく述べた。

東京電力の電力需給イメージ図によると、夏季(7月1日~9月30日)13時~16時の3時間が電力需要のピークとしている。昨年、政府は夏場の電力需要逼迫に備えて国民に15%以下の節電を訴えた。これに対し、国民はあらゆる手段を講じて応えた。その結果を読売新聞では次の通り報じていた。

東京電力の今夏の最大使用電力は8月18日午後2時台の4,922万kWで、前年のピーク(5,999万kW)を18%下回った。当初想定していた今夏の最大使用電力(5,500万kW)も大幅に下回った。記者会見した藤本孝副社長は「(需要の)想定が高かった」と節電が想定以上に浸透したことを示唆した。
政府が電力使用制限令に基づいて「15%節電」を義務づけた大口電力契約者は、ピーク電力の節電効果が前年比29%となった。小口契約者は19%、家庭は6%だった。
来夏は稼働停止中の原子力発電所が再稼働できなければ、電力需要が供給力を上回り、企業や家庭に対する節電要請が必要になるとの見通しだ。来夏時点の供給力は火力発電の増強などで計300万kW増えるが、柏崎刈羽原発の定期検査で原発による供給力は計500万kW程度減るためだ。
2011.9.26 読売新聞

参考
原子力を巡る状況について 資源エネルギー庁2012.1