2012年2月 大雪間

2012年2月18日午前、調布での用事が済んでから神代植物園へ行く。園入口で今咲いている花を聞くと、梅の開花は遅れているがまだ蝋梅が咲いているという。園内に入ると、昨夕から夜半にかけて降った雪がわずかに平地や築山の木々をうすく覆っている。空は青く空気は冷たい。神代植物公園通り(桜並木)から池の方へ入る。

雪釣りをした5~6m位の松が3本池端に立っている。雪に覆われている地面に放射線状の雪釣りが美しい。池沿いにせせらぎの小路を歩く。水量が少ないためか小川の渡り石は乾いてむきだしになっている。葉を落とした雑木の逆さ影と朝日影が水路の水面で交錯している。足元に横たわった丸太に雪が半分くらい被っている。そこから芝生広場に出る。大雪間には雑木が長い影を落とし、芝生の約半分は雪に覆われ、その上に一筋の足跡が続いている。もうすでに誰か歩いたようだ。

大通りに出て深大寺門方向へ少し歩き、神代小橋を渡り梅園に入る。梅のつぼみはまだ膨らんでいない。梅園の奥には蝋梅が咲き、多数のカメラマンが集まって蝋梅を撮影している。黄色や赤色の万作が咲いている。家の蝋梅は既に咲き終わっているが、ここではまだ盛りを少し過ぎたくらいだ。今年は例年に比べ、梅や蝋梅の花期が2~3週間ほど遅れているようだ。

俳句結社から離れて既に12年、どこへも出句することがなくなった。それでも「鳥目虫目」に掲載するため、自分に月1句の作句を課している。
深大寺には波卿ゆかりの地で波卿の墓がある。結社にいた頃、句友と幾度も訪れづれたことがあった。わたくしにとってもここは懐かしい場所だ。深大寺門を出て石田波卿墓に向かう。低い瀟洒な墓石に柔らかなタッチの波卿墓名が好もしい。わたくしの俳句の師石田勝彦(1920-2004)は波卿(1913-1969)の直弟子だった。入門したての頃に波卿の話をよく聞かされた。波卿は韻文精神にのっとった人間諷詠を標榜した。清爽な波卿の風姿が句に反映しているといわれている。勝彦師は波卿の影響をもっとも強く受けておられ、わたくしは勝彦師を通して会ったことのない波卿の人なりを想像している。

墓苑出口の曲がり端に深山茶屋という名の蕎麦屋があり、丁度昼時なので立ち寄ることにする。雑木に囲まれた客席には屋根はなく青天井だ。風が吹いて木々がざわめき、食卓に木漏れ日が差している。入口脇には薪が積まれ囲炉裏が置かれて太い節の榾が赤々と燃えている。ご婦人の先客が3名、賑やか談笑している。ここは深山の峠茶店のような風情だ。これまで多くの俳人がここに立ち寄ったものだろう。やがてあたたかい蕎麦が運ばれてきた。

深大寺門前を出て、水生園に立ち寄り木道を歩く。水の張った泥田には蓮などの株がむき出しになり、薄が立ち枯れている。地表はまだ冬の風情を引きずっているが、日の光はすでに春の日差しだ。

一筋の あしあとよぎる 雪間かな 幹治