2011年6月計画停電と原発災害

2011.3.11より約2ケ月半が経過した。新聞・テレビの報道によると現地では、まだ広範囲に巨大地震、巨大津波の爪あとが残っている。また福島原発危機には、解決の道筋が見えてきていない。また原発が放出した巨大な量の放射能物質が広大な農地や海を汚染した結果、農水産物や観光地の風評被害をもたらし地域住民を苦しめている。今や現地では地震災害、津波災害、原発災害、風評被害の四重苦に見舞われている。

計画停電
原子力発電所事故を受けた電力供給不足への対応として3月14日から始まった計画停電は、4月8日に打ち切りが決まった。計画停電の対象になった地域の工場では生産に支障が生じ、製品、部品、材料の供給不足を招いた。
もともと計画停電が始まったのは、原発事故により電力供給に深刻なダメージが出たからだ。原子力発電所からの電力供給力は、現在491万キロワットで事故前の3分の1以下にまで落ちたほどだ。東京電力管内では、家庭の冷房などで電気使用が急増する夏場は850万キロワットの電力不足が生じると試算された。

供給力が落ちたなら、電気を使う需要側を絞り込めばつりあうはず…。こんな発想から実施したのが計画停電だった。ただ一定時間内の停電を対象地域に強いる方法は、家庭生活が不便になるばかりか、企業の生産活動を鈍らせた。

影響が大きかったのは半導体メーカーだ。瞬間的な停電があっても生産ラインが止まり、設備の洗浄などが必要になる。工程によっては、ラインが止まると再開に1週間はかかり、計画停電が本格生産への道のりを険しくした形だ。生活関係では医薬品。無菌室で製造する注射剤は、停電すると滅菌作業の中断を余儀なくされる。このため、電力の安定供給のメドがつくまで、生産を見合わせる薬品メーカーが出た。

大手ビール各社は、関東周辺の主力工場が計画停電の地域にあたった。停電時間そのものが3時間程度でも、停電前後には、配管の洗浄や設備点検が数時間も必要になり操業の壁となった。微妙な温度調節に電気の継続供給が欠かせないヨーグルト製造は、一時的にでも停電になると品質に問題が出る恐れがあり、生産を躊躇(ちゅうちょ)するメーカーが相次いだ。
また同じ東京都の23区内でも、計画停電にならない地域もあり、対象地域からは「不公平」との声があがり、評判は散々だ。生産の停滞を緩和するため、計画停電の原則実施は撤回されることになった。
2011.4.10MSN産経ニュースより転載

この計画停電は産業界や国民生活に甚大な影響を及ぼし、あらためて全てが電力の恩恵を受けていることを思い知った。八王子では、3月末までに計画停電が何度か実施され、2度、夜間の約2時間が停電となった。外の明かりは消えて真っ暗となり、家では懐中電灯とロウソクで明かりをとった。暗いので新聞や雑誌が読めないため、もっぱらラジオをつけてニュースなどを聴いていた。その時でも余震が起き、ラジオや携帯が震源地や震度などを知らせてくれた。身をもって暗闇で情報が途絶えると不安になることを実感した。

みんなが仕事を早々に切り上げ家族で身を寄せ合った不自由な時間帯は、それほど不幸なものではなかった。たまには、こんなことも悪くない。周りの人も同じようなことを云っていた。約150年前までの人々は、日が出ると起きだし日が没すると早々に休むという簡素な生活をしていた。工業化社会が進展するにつれ石炭から石油へとエネルギー革命がおきた。

第二次大戦後、原子力とコンピュータが開発され、現在原子力利用が世界のエネルギー供給の一部を担っている。石油・石炭は、生き物が太陽エネルギーを受けて体に蓄えたものを十数億年かけて化石化した化石燃料である。


原発災害
大量生産大量消費の生活様式はエネルギーを大量に浪費する。人間はエネルギー不足を補いエコ対策になるものとして、原子核を核分裂させ巨大なエネルギーを生み出す原子力利用を考えだした。水を沸騰させてタービンを回しエネルギーを取り出す発電方式について、石炭や石油と原子力は同じであるが、両者の燃焼温度は桁違いに違う。

原子力発電に使われる核燃料にウラン235とウラン238がある。ウラン235に中性子が衝突すると、原子核が分裂して熱を出す。これに対してウラン238は、中性子が衝突しても殆ど核分裂せず(きわめて大きなエネルギーを持った中性子が衝突すると核分裂する)、中性子を吸収すれば短時間でプルトニウム239に変化する性質がある。

そのプルトニウムに中性子が衝突すると、やはり原子核が分裂して熱を出す。この熱を利用するのが原子力発電である。地中から採掘される「天然ウラン」のうちウラン235はわずか0.7パーセントしか入っていない。わずかしか存在しないために鉱業採算性が悪い。資源そのものも石油とそう変わらないといわれている。そのため残りの99.3パーセントを占める核分裂を起しにくいウラン238に、中性子を順次ぶつけてプルトニウム239に変えゆく。その結果、消費されたプルトニウムよりも新しく生まれたプルトニウムの量が多ければ地下資源が増加したことになる。

ウランが燃焼する過程でプルトニウム238、239、240、241、242が生成される。「原発」にウラン原子炉におけるプルトニウム生産→「再処理工場」におけるプルトニウム抽出→「高速増殖炉」によるプルトニウム増殖。

この再処理技術の確立と、取り出したプルトニウムを燃やす専門の原子炉(高速増殖炉)の二つが戦後の原子力開発の真の目的だった。再処理はアメリカ・ドイツが撤退し、増殖炉はアメリカ・イギリス・ドイツ・フランスが、いずれもことごとく事故を起こして失敗し開発を断念している。プルトニウムは耳かき一杯で数万人を殺戮するほどの毒性が強く、プルトニウム239の半減するまで、二万四千年を要する。高速増殖炉は技術的な危険性、莫大な開発コストがかかることから、現在この成功を信じるものは殆どいない。
広瀬隆 藤田祐幸:「原子力発電で本当に私が知りたい120の基礎知識」より抜粋東京書籍

従来の方式は確かにCO2を排出するが、原子力利用ではCO2を出さない代わりに核分裂させる結果、「死の灰」としての放射性物質を残す。前述の著書の中で、元慶応大学物理学助教授藤田祐幸先生は原発の放射能問題について、次ぎの主な3つを挙げている。
(わたくしは2006年エントロピー学会の縁で先生の慶應大学を退職された時の退職記念講演を聴講した。その時には浜岡原発の行く末をいたく心にかけられ、この危機から逃れるため、自分は長崎に隠遁するといっておられた)

①巨大事故 チェルノブイリや福島原発などで明らかにされてきた。
②労働者被ばく 労働者が日常的に被ばくすることなしに電力をつくることができない。
③放射性廃棄物 数万年も強い放射線を出し続ける。

わづか70~80年の寿命に人間が、数万年もの寿命を持つ放射性廃棄物を生み続けている。もはや、年々累積する放射性廃棄物の処理は、現在世代にとって解決不能の問題だ。いったい、どのように後世の人たちに手渡すのか。
原子力利用技術は高々約70年位しかなく、今回の原発事故で消防車が出て放水をするというお粗末な対応で「安全神話」からほど遠い、まだまだ未完成の技術であることを露呈した。

大量生産大量消費の生活様式は、果たしてわれわれ生活者が望んでいたものであっただろうか。これまでの経緯を振り返ってみると、より便利な、より新奇な「もの」を次々に与えられ、それが進歩だとして古いものを捨ててきた。現在世代は、ただ考えることなく与えられ続けてきただけではないだろうか。人間の強欲は、制御不能な原子核に手を染め、引き起こした巨大事故になす術もなく立ち往生しているのが現在の姿である。

その結果、今回の原発の放射能汚染などによる未来世代に生命の危機を脅かすという大きな負の遺産をつくった。もの云えぬ未来世代に対して、現在世代は、今や大いなる罪を犯しつつある。これを起こした原因を徹底的に検証し、当事者の責任を追求し、これらの経験を今後に生かさなければならない。

黒南風や 明かりをおとす 改札口 幹治