2008年8月草取考

7月8日朝9時畑に行く。梅雨空ですこし涼しい。作物と草が競争するようにいきおいよく伸びている。今いちばん植物の生命力があふれている時期だ。まず下畑の草取りから始める。敷き藁の上をスイカのつるがはいだし、その間から雑草がのびている。それを一つ一つ手で引き抜いてゆく。畑の中の道にも遠慮なく雑草がはえる。これらは鋤簾(じょれん)で掻きとる。雑草は放っておくと直ぐに広がる。小さなうちにつみ取ればよいが、つい目先の仕事が先になり草取は後回しになる。地面に張り付いた雑草を手で剥ぎ取るのは腰力がいる。次は中畑だ。大根畑の畝と畝間が雑草に覆われている。まず、大根を引き抜いてから草取だ。大きく伸びた雑草を両手で引き抜く。鋤簾で掻きとってもよいが根が残ってすぐに生えてくるので、手で抜くのが一ばん確実だ。

草取には大きく分けて、原野の雑草を刈るものと水田の雑草をとるものとがある。わたくしのふるさとの民謡にコキリコ節があり、その歌詞に朝草刈がでてくる。干草にして家畜の餌にしたり、積んで堆肥にするため朝の涼しい間に原野に出て雑草を刈る。田の荒起こしや荷役に馬を使っていた時代には、これが毎朝の日課だったという。

また放っておくと稲の生長の妨げになるので田植後20日前後から土用過ぎまで水田の雑草をとる。素手で泥田をかき回し雑草を埋め込む作業である。稲の葉先が目に刺さると失明することがあるので、金網の面をかぶる。これを一日中うつむき腰をまげ広い田んぼをはうようにするつらい作業だ。一番が横方向、二番が縦方向、そして土用の蒸し暑い照り返しの中を三番は横方向にとる。仮に水田1町(約1ha:10000m2)の田草を取る場合、1m間隔で折り返し歩いても延べ1kmになる。稲株の間隔を0.33mとしてこれを歩くと3倍の約3kmになる。梅雨に高温多湿で雑草が繁茂する日本の農家の農作業の半分は草取といわれる。わたくしたちの先祖代々はこの田草取を営々とおこなってきた。田舎で腰の曲がった農家のご老人をよく見かけるが、長年の草取のせいだろうか。

1950年代に入って日本でも農薬が使われだした。これによって防虫病害や雑草防除が容易になり農家は重労働から解放された。その結果、薬剤を散布した農家が残留農薬に犯されたり農作物を食べ続けて体の異常を訴える人がでたり、また田んぼから虫や鳥が少なくなるなど自然の生態系が激変している。農薬のかかった作物と農薬のあまりかからない手間がかかる多少価格の高い作物とのどちらを選ぶか、消費者は問われている。

昔のむらには6月までに田植えが済んでから9月1日(旧8月1日:八朔)までの約3ケ 月間、日中の暑さを避けるため「ひるね」をして昼の農作業を休む習慣があった。そのかわり、早寝起きをして早朝や夕方の農作業を行った。むかしは、日が昇れば野良に出て働き、日が沈めば家に帰って休息しだんらんするという、自然に合わせた健全な人間のくらしがあった。いまは全てが安易になり、自然とはかけはなれ、物や仕事に追われる余裕のない毎日を送っている。時代の進歩とは、いったい何なのだろうか。

ひきはがし ひきはがしつつ 草を取る 幹治