2005年6月 合鴨

堰に溢れた水は奔流となって畦川を下る。近くの田んぼに二羽の小鷺が降り立った。梅雨入りを間近にして珍しく晴れた日の午前11時。ここは、八王子市高月町の約30haまとまった水田の農道を歩く。水田面積は都内でも最大規模である。わたくしの田舎は、見渡す限り田んぼが広がり屋敷森が散在する散村で有名な砺波平野にあり、ここにくると小規模ながら懐かしい水田風景を目にすることができる。

午後2時頃、人々が次々に車でやってきた。幼児や小中学生も含めた家族連れの一団である。ここの農家は合鴨農法を実践しているところで、1993年頃より始め、今年で13年目になるとのこと。今日は、日頃合鴨米を食べている消費者が、この農家で田んぼに合鴨を放つところを見学する集まりである。倉庫の一隅に合板で仕切られた上開きの箱が置かれ、そこに合鴨の子が飼われていた。みんなで上から覗くと、小鴨達は驚いて一斉に向きを揃えて動き出した。子供達も目を輝かせ歓声をあげる。

この小鴨は、5月21日に卵から孵り今日で22日目とのこと。体長は約15㎝余り。このうち22羽をケースに入れて近くの田んぼに運ぶ。田の畦には小鴨達が逃げないように約1.5mの高さの網が張られ、網で2枚の田を取り巻いている。子供達に順番に小鴨を一羽ずつ手渡し、田に放つ。小鴨達はピーピーと鳴き声あげ八方に散って行く。

農家の当主の話を要約すると次のようになる。
・合鴨は家鴨と真鴨の合い子で、家鴨より小型。家鴨に似て飛べない。田んぼの水草や虫を食べてくれ、合鴨が撒き散らす糞は窒素肥料になる。無農薬有機農法。
・無害な虫や蛙など区別なく食べるので、純粋な自然農法といえない
一面もある。
・合鴨が田の水底の泥を掻き回すと田水が濁り、その結果日の光が底までに届かず水草の繁茂を抑えてくれる。また、苗に刺激を与え るので苗の生育が促進する。
・稲が育つ8月頃に、鴨を田から引き上げる。成鳥の重量は約1.5kg。食肉加工は業者に依頼する。1羽あたり約0.8kgの食肉がとれる。
・10a(1,000㎡:約1反)当り約15羽の合鴨でほぼ満遍なく水草などを食 べてくれる。約70aの4枚の田に103匹の小鴨を入れている。東京ではここだけ。
・消費者が合鴨米を購入する場合、米と鴨肉の両方を受けとることが 条件になる。

人間は、自分の「いのち」を維持するために、他の生き物の「いのち」をいただく、自然によって生かされている存在である。この合鴨農法の「地産地消」の結びつきにより、消費者は「自然からの恵み」を実感できる。農業は生き物の「生と死」に係わる、正に生命産業である。
(地産地消:地域生産地域消費の略)

鴨の子の 鴨の子押せる 水際かな 幹治